ぶらり旅

199X年2月XX日、晴れ。

現地時間で午後1時XX分。
バンコク国際空港を遅れて出発したタイ国際航空TG31X便は
まだレーダー着陸設備のないトリブバン空港へのアプローチを開始した。

数年前、トリブバン空港では航空機の墜落事故が発生していた。
空港の周囲を高い山に囲まれているという立地の悪さに加えて
季節によっては午後に発生する雷雲による乱気流も離着陸を難しくする。

幸い今日は天気も良く、乱気流も発生していないようだ。

静かな機内にはタイ人と見られるビジネスマン、
ネワール人特有の帽子をかぶった男性、数組の白人のバックパッカー。
見える範囲に日本人は居ない。

バンコクでは日本語はもとより英語も通じにくくて苦労した。
旅行者のバイブル「○○の歩き方」には英語が通じると書いてあったが、
いったいどのレベルの英語を話してくれるのだろうか。

CAの英語”らしい”アナウンスを聞きながら、少し心配になってきた。

「ヒマラヤを見に行こう。」

誘ってきたのは高校の山岳部で一緒だった友人だった。

当時の私は毎年アルバイトで稼いだお金で海外に出かけており、
次はどこの国に行こうかと考えていたところだった。

「ああ、行こう行こう。」

簡単に答えたものだ。

高校の山岳部では毎月九州各地の山に登っていたため、
食料さえあればどこでも寝起きできる自信があった。

加えて海外旅行は何度も経験している。
アジアやインド方面への旅行は未経験だったが・・。

空港の手前で大きく旋回した後、飛行機はトリブバン空港へ着陸した。

旅にトラブルは付き物なのだが、こんなところでトラブルには遭いたくない。
土産話をするつもりが思い出話をされては洒落にもならない。

入国手続きを経て両替を行う。
日本の銀行では現地通貨の取り扱いがないため、
現地で必要な通貨は空港で両替を行わないといけない。

とりあえず2万円。

旅行者の最後に両替を行ったからか、
もう紙幣がないからと、小額の紙幣の札束を大量に受け取った。
こんなに分厚い自分の財布を見るのは人生で初めて・・・。

わたしと友人。
空港から最後に出てきた外国人は、軽い疲労感と分厚い財布と共に
初めての国、ネパールへと降り立った。

つづく(かもしれない)